歴史と風土
神戸に春を告げるのは、台所から漂い出す「イカナゴのくぎ煮」の香りです。
2月下旬~3月の朝6時10分~10時という限られた期間だけ禁漁が解かれ、3cm以上に育ったイカナゴの稚魚の漁が行われます。スーパーマーケットには、漁港から届く生のイカナゴを買い求める行列ができるほど、神戸人にとって欠かせない春の郷土料理。流れの速い明石海峡で育つイカナゴは身が引き締まり、煮たときに絶妙の歯ごたえが楽しめます。
明石海峡がもたらす海の幸には、須磨海苔もあります。1961年に養殖が始まり、今では深い色合いと黒く輝くツヤ、キメの細かさから、高級海苔として東京や京都の料亭に選ばれています。潮流が早く栄養豊かな漁場で育まれることで、しっかりした香りと歯触りが生まれます。
漁・生育方法
イカナゴ漁は、兵庫県立水産技術センターが稚魚の生育状況を調査した上で、毎年定める解禁日を待って始まります。漁師たちは解禁を待ってイカナゴのいる潮目を読み、風に乗って西からやってくるイカナゴの群れを追います。
須磨海苔の特徴は「浮き流し漁法」と呼ばれる養殖方法です。水深の深い海にブイを浮かべ、網を張って海苔の胞子を育てるため、浅い海に支柱を立てる方法と比べて海水に浸かる時間が長く、海の栄養をたっぷり吸い込むことができます。
食べ方
イカナゴは、醤油、砂糖、ショウガとともに大鍋で炊かれ「くぎ煮」となります。
「くぎ煮」という名前の由来は、イカナゴを煮つめると釘に似た形になるところから名づけられました。古くから漁師の家庭で保存食として作られ、遠くに住む親戚縁者に配る習慣もあります。阪神淡路大震災の時には、神戸から全国の支援者の方々へお礼とともに贈られたことで、全国的にその名が知られるようになりました。