食材

灘の酒

written by
Aya Asakura
photo by
Aya Asakura

歴史と風土

神戸がある兵庫県は、酒米の王様「山田錦」の生産量が全国の80%、日本酒の生産量が全国1位の日本酒のメッカです。阪神間の海岸線に沿った地域は、17世紀前半に酒造りが本格的に始まって以来「灘五郷」と称賛されてきた酒どころ。今現在も、今津・西宮・魚崎・御影・西の五郷で27の酒蔵が営みを続けています。

この地域で酒造りがさかんな理由のひとつは、「宮水」と呼ばれる名水に恵まれているからです。宮水は、六甲山に降った雨が花崗岩の地層を通ることで酵母の栄養になるリンやカリウムを豊富に取り込んだ地下水。湧出する地点で3本の地下水脈が合流しており、1本が多く含む酸素の働きで、お酒の風味を損なう鉄分だけが消えるという奇跡のような現象が起き、灘五郷のお酒の美味しさを支えています。

品種

酒米の王と呼ばれる「山田錦」は、80年前に六甲山の北側で誕生したといわれています。背が高いため倒れやすい可能性があるものの、粘土質の土壌のためしっかりと根が張ることができます。神戸市北区にはこの土壌に加え、日照時間が長い、降水量が少ない、昼夜の温度差が大きいといった神戸の気候条件も山田錦の栽培に適しています。山田錦は粒が大きいことで知られ、そのため玄米の30%近くまで小さく磨き上げることができ、雑味の少ない洗練された味を追求できます。日本酒の最高峰「大吟醸」は、そうして生まれたのです。

食べ方・製造方法

日本酒の原料は、お米と水です。原料は2つとシンプルですが、お米の芯の部分(50%以下)だけを使った「大吟醸」からそれほど削らない(70%以下)の「本醸造」まで、お米の削り具合や原料の違いによって異なる呼び名があります。また、糖分をアルコールに変える酵母を育てる酒母(酛)には、様々な種類があります。山廃酛や速醸酛などがありますが、中でも生酛は自然界の微生物を利用した昔ながらの伝統製法のひとつです。